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2020年9月21日

交通事故に遭いやすい「魔の年齢」。VRを活用したトレーニングで、路上訓練並みの効果を期待。

※本記事は、旧公式サイトで2020年9月21日に公開された記事を移植したものです。統計・制度・技術・価格等は執筆当時の情報です。

サマリー

  • 歩行中の交通事故死傷者数を年齢別にみると7歳が突出している。これは危険に対する認知・判断能力が不十分なまま一人で出歩く機会が増えるからであると考えられる。
  • 日本は諸外国に比べて子どもの人口当たり交通事故死傷者数が多く、子どもの交通事故は解決すべき重要な問題。
  • VRを用いた交通訓練に関する研究が進んでおり、路上訓練並みの効果が期待できる。警察は、幼稚園でのVR交通訓練のトライアルを行うべき。

本文

歩行中の交通事故の死傷者を年齢別にみると、7歳児が突出して多いことが分かっています。平成27年では、7歳児の交通事故死傷者数は1,462人であり、成人の1歳あたりの死傷者数の約2.2倍の数値となっています。さらに、通行目的別に死傷者数をみると、7歳児になると、登下校、遊戯・訪問での死傷者が急増することがわかります。

これは、7歳児は小学1年生にあたり、一人で出歩く機会・範囲が急に拡大する年齢だからこそ、交通事故被害者数が突出していると考えられます。同様の傾向はイギリスでも見られます。イギリスでは、人口1万人当たりの交通事故死傷者数は11~13歳が突出しているのですが、これは、中学生(11歳)になって一人で出歩く機会が増えるからと考えられています。実際に、親の付き添いのもと学校に通う割合は、7~10歳の子供では88%であるのに対し、11~13歳では31%となっています。また、年少者は、危険に対する認知・判断能力が十分に養われていないことも大きいです。実際に、海外の研究では、7歳を中心とした年少者は、危険認知・判断能力に問題を抱えていることが報告されています。例えば、7-13歳の子ども27人と、20-27歳の大人20人に対して、仮想空間上で駐車車両・カーブなどで視界が悪い交通場面を見せ、危険だと思った時にボタンを押してもらう実験では、7-9歳が有意にボタンを押した回数が少ないことが判明しました(駐車車両で視界が悪い時には、9-13歳が平均6回程度、成人が平均8回程度に対して、7-9歳は平均0.5回程度)。他にも、歩行横断時、大人は視点を広くとるのに対して、子どもは中央ばかり見る傾向があることも指摘されています。このように、7歳を中心とした年少者は、認知・判断能力に問題があるにもかかわらず、外に出歩く機会・範囲が急に拡大するため、交通事故に遭いやすくなっています。

では、現状の交通事故対策がどうなっているかというと、まだ課題が大きいといえます。小学校での交通訓練は、わずかながら、そもそも行われていない学校も存在します。また、地域ごとに実施内容・時間もバラバラです。幼児への交通指導については、平成29年3月に、幼稚園教育要領、保育所保育指針及び幼保連携型認定こども園教育・保育要領が改訂され、「交通安全の習慣を身に付けるようにする」との規定が盛り込まれるなど、ようやく幼児への交通訓練の必要性が認識され始めたものの、効果の検証された交通訓練は行われていません。

そして、この問題は早急に対策を打つべき重要な課題と言えます。交通事故は子どもの主たる死亡原因であり、人口10万人当たり死亡率順位(2013年)では、5-9歳の第2位、10-14歳の第4位が交通事故となっています。また、諸外国と比較しても、子どもの交通事故は多く、0-14歳の人口当たり交通事故死傷者数(2012年)では、ドイツ、アメリカ、イタリア、カナダが0.1~0.2%であるのに対し、日本は0.3%となっています。日本は交通事故対策後進国といえるでしょう。

では、子どもの交通事故を減らすためにはどうしたらよいでしょうか。アメリカ外傷外科学会のレビューによると、エビデンスレベルが高い研究として、「子供と高齢者に対して、交通訓練は道路横断時の行動を変えることができる。ただし、交通事故リスクを減らすかは不明。」という結論のレビュー研究をあげています。交通訓練に関するほとんどの研究では結果がテストのスコアなどでとられていて、行動が変わることは確認されていますが、実際に交通事故を減らすかどうかは不明ということです。しかし実際に死傷者数までみている研究もいくつか存在します。Walk Safeプログラムを全小学校で導入したマイアミ・デイド郡では、プログラム開始後5年間で0-14歳の歩行者交通事故死傷者が約40%減少しました。これは、教室指導、外でのシミュレーション、ポスター作製、振り返りを3日間で行うものです。ただし、この研究は、プログラム以外の要因を統制できていないため、因果関係を示すものではないことには注意が必要です。また、マンハッタン地区では、全ての小学校3年生に対する模擬道路を使っての横断指導、公園の増設、子どもたちのレクの監督などを行ったところ、子どもの歩行者交通事故死傷者数は、年変動の影響を調整しても、約45%減少しました。一方、こうした外でのシミュレーションなどの実地での交通訓練は、指導員の確保や安全性の担保が難しいといえます。このような問題を解決するのが、VRを使った交通訓練です。VRを用いた交通訓練の研究は海外で進んでおり、トレーニングによって、危険に対する認知・判断能力が向上するということが報告されています。システマティックレビュー・メタアナリシスでは、VRでの訓練は、個人・少人数指導に次いで子どもの交通に関する行動変容に有意に効果があると報告されています。7-9歳の子ども24人を対象にしたある実験では、横断歩道・見晴らしのよさなどの状況が違うシナリオを見せ、危険だと思った箇所を指摘してもらい、また、高い視点から見た同じ映像を再度見て相違点に言及してもらい指導する訓練を行い、危険に対する認知・判断能力(仮想空間上でのボタンからの判断)が有意に向上することが判明しました。また、VRトレーニングと、PCを使ったトレーニング、実際の道路でのトレーニングの効果を比較した実験でも、注意力、横断遅れ、仮想空間での衝突などの指標から、路上訓練と並んでVRは効果があることが報告されています。

このように、VRを使った交通訓練は、路上に行かずとも、路上にいるかのような訓練ができるため、路上訓練と同様高い効果が期待されます。

したがって、交通訓練を受け持っている警察に、7歳を中心とした年少者の交通事故を減少させるため、VRを使った交通訓練を幼稚園で行うことを提案します。しかし、日本でのVR交通訓練のエビデンスは不足しているため、まず、特定の幼稚園でのVR交通訓練を実施し、効果測定を行うべきです。日本でも、VRを活用した交通訓練には注目が集まりつつあります。たとえば、新潟県警はVRを活用した路上歩行シミュレーターを導入しました。また、大阪府警とNTT西日本は「VR自転車交通安全教室」を行いました。さらに、企業ヒアリングによると、動画撮影1本あたり100万円程度ででき、VRヘッドセットも1台数千円程度で、また、幼児へのVR使用による目への影響も、複眼型でなく単眼型にすることで解決できるとのことで、実現可能性も高いといえます。警察は、VR関連企業・幼稚園・保育園と協力しながら、子どもの交通事故減少に向けて取り組みを進めていくべきです。

まとめ

7歳が突出して交通事故にあっており、適切に訓練を行うことで交通事故を減らせることが海外で報告されているにも関わらず、対策が行われていないという問題を解決するため、海外で効果検証の進むVRを用いた交通訓練の導入、導入に向けた日本での実証研究を提案します。